熊本地方裁判所 昭和38年(行)13号 判決 1968年4月22日
熊本県下益城郡砥用町大字境一、三五〇
原告
山田秋義
右訴訟代理人弁護士
吉田安
右訴訟復代理人弁護士
本田正敏
熊本県上益郡城御船町
被告
御船税務署長
福本正喜
右指定代理人
日浦人司
同
永田已由
同
塚田尚徳
同
大塚勲
同
宮田正敏
同
笠原貞雄
右訴訟代理人弁護士
篠原一男
右当事者間の、昭和三八年(行)第一三号行政処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
一、被告が昭和三七年六月二三日付でなした原告の昭和三五年度分所得税額を三一八万九、六〇〇円とした更正決定のうち三〇六万二〇〇円を越える部分および重加算税一五二万五、〇〇〇円のうち一四六万五〇〇円を越える部分はいずれもこれを取り消す。
二、原告のその余の請求はこれを棄却する。
三、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一双方の申立
(原告)
一、被告が原告に対し、昭和三八年一〇月一六日再更正決定した昭和三四年度所得税額金三二八万五、五五〇円のうち、金一四万八、二〇〇円を越える部分および重加算税額金一五六万八、五〇〇円の賦課決定はこれを取り消す。
二、被告が原告に対し、昭和三七年六月二三日更正決定した昭和三五年度所得税額金三一八万九、六〇〇円のうち、金一三万八、八〇〇円を越える部分および重加算税額金一五二万五、〇〇〇円の賦課決定はこれを取り消す。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
第二原告の請求原因
一、原告は被告に対し、昭和三四年度および昭和三五年度の各所得税に関し別表一記載のとおり確定申告をしたところ、被告は同表記載のとおり更正決定ならびに重加算税の賦課決定をなした。原告の両年度における営業所得は真実確定申告のとおりであるが、これを証明する記録等を所持しないため、原告はやむを得ず立証可能な損失額(昭和三四年度四三〇万円、昭和三五年度三〇五万円)を右各更正決定額から控除して、被告に対し同表記載のとおり再調査請求をしたが、被告は昭和三七年一〇月一日請求却下決定をなした。そこで、原告は昭和三七年一〇月一三日訴外熊本国税局長に対し審査請求をしたが、同国税局長は昭和三八年八月二九日請求棄却の決定をなした。しかるに、その後被告は昭和三四年度所得税に関し同表記載のとおり再更正決定ならびに重加算税の賦課決定をなした。
二、しかしながら、原告の営業所得は、いずれも確定申告のとおり昭和三四年度一一〇万円、昭和三五年度五三万六、〇〇〇円であって、課税所得金額は昭和三四年度七七万四、九〇〇円、昭和三五年度七三万四、〇〇〇円である。したがって、所得税額は昭和三四年度一四万八、二〇〇円、昭和三五年度一三万八、八〇〇円となるから、前記昭和三四年度分再更正決定および昭和三五年度分更正決定のうち右税額を越える部分は取り消されるべきである。
三、原告は山林売買業を営むものであるが、元来、山林売買には必ず四、五名以上の仲介人が介入するのが通例であり、これら仲介人に対しては手数料を支払い、あるいは利益を分配する等多大の経費や贈与を要するほか、山林売買には事前手配に要する経費も看過できず、しかも事前手配をした山林の取引が必しも契約として成立するとも限らないのである。被告は原告の要したこれらの経費、贈与あるいは損失を資料なしとして認めないのであるが、これらは慣習として領収書等の文書の授受がないために、原告はその立証ができないだけである。したがって、原告のなした確定申告は、作為的に過少申告をしたり、税額の基礎を隠ぺいあるいは仮装したものではないから、被告がなした前記重加算税の賦課決定は違法で取り消されるべきである。
第三被告の答弁および主張
一 請求原因第一項の事実は、原告の営業所得が確定申告のとおりである旨の部分を除きすべて認める。同第二項の事実は否認する。同第三項の事実のうち、原告が山林売買業を営む者であり、山林売買には原告主張のとおり相当多額の経費、贈与あるいは損失を伴うことは認めるが、被告が資料なしとして認めないとの事実は否認する。その余の事実は不知。
二 課税処分の根拠。
(昭和三四年度分営業所得の計算)
(一) 原告の収入金額
1 原告が山林を買入れて売却したもののうち、買入金額および売渡金額の判明したものは、別表二の一のとおりで、その買受金額の合計金額は六、〇二〇万円、売渡金額の合計金額は八、一一三万円で、その差益金額は二、〇九三万円である。
2 原告が山林を買入れて売却したもののうち、買入先および買入金額の明らかでないものは、別表二の二のとおりで、その売渡金額は合計一、〇二〇万円である。しかし、買入金額が判明しないため差益金額の計算については、被告はやむなく別表二の一の各山林(番号(1)は特に差益率が大きいため除外する。)ごとの売渡金額に対する差益金額の割合を求め(別表二の一「利益率」欄記載のとおり。)この割合の平均額二一、九を前記売渡金額一、〇二〇万円に乗じて、差益金額を二二三万三、八〇〇円とした。
3 原告が山林の所有者と購入者との間に介入して得た周旋料の金額は、別表二の三のとおり合計九八万円である。
4 原告は、山林仲介については多額の手数料を第三者に支払っていると申し立てているが、原告が記帳していないため(仮りに記帳しているとしても被告に提示しない。)その金額が明らかでないから、被告は、原告が被告あて提出してきた昭和三六年分の所得税確定申告書に記載されている(昭和三四年分および昭和三五年分については記載がない。)受入手数料一八〇万円に対する支払手数料九〇万円の割合を右1、2、3の合計金額二、四一四万三、八〇〇円に乗じて支払手数料を一、二〇七万一、九〇〇円と推計した。よって、合計金額二、四一四万三、八〇〇円から支払手数料の推計金額を控除した一、二〇七万一、九〇〇円を山林周旋による収入金額とした。
5 原告が素材を製造販売した金額は別表二の四のとおり一、四六〇万円である。
(二) 所得金額の計算
被告は、原告に経費についての記帳がないため、山林周旋については、商工庶業等所得標準率表によって所得率六七%を山林周旋による収入金額一、二〇七万一、九〇〇円に乗じて所得金額を八〇八万八、一七三円とし、素材販売については、所得率(自一〇、二〇%至一八、二〇%)の最低率一〇、二〇%を素材販売による収入金額一、四六〇万円に乗じて所得金額一四八万九、二〇〇円とし、営業所得の合計金額を九五七万七、三七三円とした。
(昭和三五年度分営業所得の計算)
(一) 原告の収入金額
1 原告が山林を買入れて売却したもののうち、買入金額および売渡金額の判明したものは、別表三の一のとおりで、その買受金額の合計金額は四、七四〇万円、売渡金額の合計金額は六、六九五万円で、その差益金額は一、九五五万円である。
2 原告が山林を買入れて売却したもののうち、原告の買入先および買入金額の明らかでないものは、別表三の二のとおりで、その売渡金額は一、五七五万円である。差益金額の計算については、買受金額が判明しないため、昭和三四年分と同じく別表三の二の各山林ごとの売渡金額に対する差益金額の割合を求め(同表「利益率」欄記載のとおり。)この割合の平均額二八、一%を前記売渡金額に乗じて差益金額を四四二万五、七五〇円とした。
3 原告が山林の所有者と購入者との間に介入して得た周旋料の金額は、別表三の三のとおり一六六万円である。
4 前記1、2、3の合計金額は二、五六三万五、七五〇円であるが、原告が第三者に支払った手数料は、昭和三四年分と同一計算により一、二八一万七、八七五円と推計して合計金額二、五六三万五、七五〇円から控除し、山林周旋による収入金額を一、二八一万七、八七五円とした。
(二) 所得金額の計算
昭和三四年分と同一要領により、商工庶業等所得標準率表による山林周旋の所得率六七%を山林周旋による収入金額一、二八一万七、八七五円に乗じて、営業所得金額を八五八万七、九七六円とした。
(重加算税額の課税について)
(一) 原告の確定申告書による営業所得金額は、昭和三四年分一一〇万円、昭和三五年分五三万六、〇〇〇円であり、被告の調査による原告の営業所得金額は、前記のとおり昭和三四年分九五七万七、三七三円、昭和三五年分八五八万七、九七六円であって、その差額は莫大である。のみならず、別表二の一および別表三の一によって明らかなように両年度における各山林の取引によってえた差益金額はいずれも相当な額であって、原告が両年度の所得税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしたことは明らかである。
(二) 被告は右の事実に基き、国税通則法附則第九条の規定により、昭和三四年分および昭和三五年分について所得税法(旧法)第五七条を適用して重加算税額を徴する決定をなしたものである。
(被告主張額と課税処分)
前記のとおり、原告の営業所得金額は昭和三四年分九五七万七、三七三円、昭和三五年分八五八万七、九七六円であるから、これを下廻る昭和三四年分営業所得金額七七三万六、二二〇円および昭和三五年分営業所得金額七七六万八、六五〇円と認定してなした課税処分ならびに重加算税額を徴収する決定処分はなんら違法ではない。
第四被告の主張(第三の二)に対する原告の答弁
一、被告主張の昭和三四年度分営業所得の計算(別表二の一、二の二、二の三、二の四)、昭和三五年度分営業所得の計算(別表三の一、三の二、三の三)のうち、別表二の二番号(2)、(3)、別表二の三番号(6)、(9)、別表二の四番号(1)、(2)、別表三の二番号(4)に記載の各取引は不知、その余の取引がなされた事実は認める。
被告主張の各取引額に対する原告の答弁および各取引に際して原告が支出した支払手数料は、各別表の「原告の認否および主張」欄に記載のとおりである。
二 今日の不動産、山林取引業界において登記価額(登記申請書添付の売渡証に記載された売買価額)と現実の取引価額とが相違することは商慣習とさえなっている。本件の場合、原告が売渡しあるいは仲介した相手方は大部分が法人である関係上、現実の取引価額を記帳、申告するのであるが、原告が買受けた相手方は大部分が個人であることから、現実の取引価額より低く記帳、申告をする結果、その差額(すなわち原告の収益)が多額に生ずることとなる。被告主張の取引額は、右の事実を看過した点において誤りがある。
三 原告は昭和三四年中、八代郡泉村柿迫所在の山林を買入れるため、所有者田村近次に金四三〇万円を支払ったが、右は二重売買であったため支払金全額の損害を蒙った。さらに、原告は昭和三五年中に、(イ)、大分県日田市井上静雄から山林代金として一〇〇万円、(ロ)水俣市大矢野光男から山林代金として一三〇万円、(ハ)砥用町田上某から山林代金として七五万円をそれぞれ詐取されて合計金三〇五万円の損害を蒙った。
第五証拠
(原告)
甲第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし七を提出。証人藤木昇吉、古川吉春、藤本勇、村田豊治、内藤貞次、寺師貞美、森田正次、高市周太郎、渡辺満喜、広川勇助、中村昇、田村近次、高橋一輔の各証言を援用。乙第二四、第二五号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。
(被告)
乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の一ないし六、第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一、二、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一ないし第一五号証、第一六号証の一、二、第一七ないし第三三号証を提出。証人川元邦夫、赤崎操、高市周太郎、嶽本進、山本美勝、小河利則、牛島敏光池上規矩雄、田中久代、桑原均、野田和之、角和憲、原田豊明の各証言を援用。甲第一号証の二の成立は認める。その余の甲号各証の成立は不知。
理由
一 被告が原告主張の経緯で昭和三八年一〇月一六日、原告の昭和三四年分課税標準八三九万八、五四六円(営業所得八四八万四、八七二円)、所得税額三二八万五、五五〇円とする再更正決定および重加算税額一五六万八、五〇〇円の賦課決定をなしたこと、および昭和三七年六月二三日、原告の昭和三五年分課税標準八〇五万六、六五〇円(うち、営業所得七七六万八、六五〇円)、所得税額三一八万九、六〇〇円とする更正決定および重加算税額一五二万五、〇〇〇円の賦課決定をなしたことは当事者間に争いがない。
原告は、原告の営業所得はいずれも確定申告のとおり昭和三四年分一一〇万円、昭和三五年分五三万六、〇〇〇円である旨主張するので、営業所得につき判断する。
二 昭和三四年分営業所得について
(一) 被告主張の各取引(別表二の一、二の二、二の三、二の四)のうち、別表二の二番号(2)、(3)、二の三番号(6)、(9)、二の四番号(1)、(2)を除くその余の取引がなされたことについては当事者間に争いがなく、右争いのない取引のうち、別表二の一番号(2)、(6)ないし(10)の買受価格、および番号(1)、(3)ないし(10)の売渡価格、別表二の二番号(1)、(4)ないし(6)の売渡価格、別表二の三番号(1)ないし(5)、(7)、(8)の受取金額についてはいずれも当事者間に争いがない。
1 別表二の一番号(1)の買受価格について。
成立に争いのない乙第三号証の一、二、証人寺師貞美、同内藤貞次の各証言に弁論の全趣旨を総合すると、原告は寺師貞美、寺師宗徳から両名共有の地上立木を代金六〇〇万円で買受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
2 同表番号の売渡価格について。
成立に争いのない乙第四号証の一ないし六に証人桑原均の証言によれば、(イ)、原告は昭和三四年一二月二九日訴外桑原商店に対し、一、二八五番の一所在の地上立木のうち松立倒木全部を金八五〇万円で売渡し、(ロ)、そのころ右地上立木のうち杉立木を金四〇〇万円で同商店に売渡し、(ハ)続いて訴外清水慶一に対し一、二八五番の一の土地および桑原商店に売渡した松、杉を除く立木一切ならびに一、二八五番の三の土地および地上立木を金九五〇万円で売渡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
3 同表番号(3)の買受価格について。
証人赤崎操、同池上規矩雄の各証言によると、原告の買受価格は金一二〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
4 同表番号(4)の買受価格について。
成立に争いのない乙第五号証によると、原告の買受価格は金六〇万円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
5 同表番号(5)の買受価格について。
成立に争いのない乙第六号証の一、二に証人角和憲、同古川吉春の各証言を総合すると、原告の買受価格は金一、一五〇万円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
6 別表二の二番号(1)の買受価格について。
原告は訴外井上静雄から金一三〇万円で買受けた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、本件全証拠によっても原告の買受価格を認めることができない。
7 同表番号(2)の取引について。
成立に争いのない乙第七号証の一、二、証人広川勇助の証言によると、原告は昭和三四年六月二四日、当該地上の杉、檜約七〇〇本を訴外南熊本木材有限会社に金二二万円で売渡したことが認められ、右認定に反する証人藤本勇の証言は信用せず、他に右認定に反する証拠はない。一方、本件全証拠によっても原告の買受先および買受価格を認めることができない。
8 同表番号(3)の取引について。
成立に争いのない乙第八号証の一、二に前掲広川証言によると、原告は昭和三四年六月三〇日、当該地上の立木四〇〇本を訴外南熊本木材有限会社に対し金三二万円で売渡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。一方、本件全証拠によっても原告の買受先および買受価格を認めることができない。
9 同表番号(4)の買受価格について。
証人角和憲の証言、同証言によって成立の真正を認める乙第二四号証に証人藤本勇、同藤木昇吉、同古川吉春の各証言(各一部)を総合すると、当該山林はもと株式会社角商店の所有であったところ、昭和三四年二月ごろ訴外古川吉春が代金七〇万円で買受けたうえ直ちにこれを原告に転売したことが認められる。しかし、原告の右買受価格については、前掲各証人の証言のうち四〇〇万円ないし四三〇万円であった旨の証言部分は信用せず、他に買受価格を認めるに足りる証拠はない。
10 同表番号(5)の買受価格について。
証人山本美勝の証言によれば、原告は昭和三四年四月ごろ訴外山本美勝から当該山林の杉約四〇〇石を代金二三〇万円で買受けたことが認められる。証人藤木昇吉の証言中右認定に反する部分は山本証言に照して信用せず、他に右認定に反する証拠はない。
11 同表番号(6)の買受価格について。
原告は歩浜友也から九五万円で買受けた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、本件全証拠によっても原告の買受先および買受価格を認めることができない。
12 同表番号(7)の取引について。
成立に争いのない乙第九号証によれば、原告は昭和三四年六月三〇日、訴外野田林業株式会社から山北山林代として金二一万円を受領したことが認められ、右認定に反する証拠はない。一方、本件全証拠によっても原告の買受先および買受価格を認めることができない。
13 別表二の三番号(6)の仲介料について。
証人広川勇助の証言に弁論の全趣旨によると、原告は昭和三四年三月ごろ、訴外南熊本木材有限会社から山林仲介料として金三万円を受領したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
14 同表番号(9)の仲介料について。
成立に争いのない乙第一〇号証の二によると、原告は外五名とともに昭和三四年一〇月、訴外桑原商店所有の山林を訴外梅崎製材所に売却するにつき仲介して、桑原商店より仲介料二五万円を受領したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
15 別表二の四番号(1)の素材販売について。
成立に争いのない乙第一一号証、第一三号証によると、原告は昭和三四年六月より同年一一月までの間に訴外野田林業株式会社に対し、被告主張額六五〇万円を越える合計金七六九万八、六四八円の素材を販売したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
16 同表番号(2)の素材販売について。
成立に争いのない乙第一二号証、第一三号証によると、原告は昭和三四年一二月一日、野田林業株式会社との間に、昭和三五年一月未までに杉素材約三、〇〇〇石を石当り二、七〇〇円で売渡す旨の売買契約を締結し、昭和三四年一二月中に被告主張額を越える合計金一、一四四万二、五二四円の素材(三、八六一石余)を売渡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 原告の収入金額
上記認定の事実からすると、原告の収入金額は次のとおりである。
(1) 売渡価格および買受価格が判明した分の収益額金二、一四八万円
別表四の一のとおりで、売渡価格合計八、三九三万円、買受価格合計六、二四五万円、収益額二、一四八万円である。
(2) 売渡価格のみ判明した分の収益額金一六二万八、〇〇〇円
売渡価格のみ判明したものは、別表四の二のとおりで、売渡価格合計七四〇万円である。このように、買受価格が判明しない場合の収益額の算定については、当該年度における両価格が判明した分の利益率を売渡価格に乗じて収益額を推計する被告主張の方法は合理的であって適法というべきである。ところで、前記両価格が判明した場合の利益率は二二、〇%(別表四の一番号(1)の利益率は特に大きいので除外する。)であるから、これを右売渡価格合計金に乗じると金一六二万八、〇〇〇円となり、これが売渡価格のみ判明した分の推計収益額である。
(3) 周旋料(仲介料)金九八万円
別表二の三の「被告の主張」欄記載のとおり、八万円である。
(4) 素材販売による収益金 金一、四六〇万円
別表二の四「被告の主張」欄記載のとおり合計一、四六〇万円となる。
(三) 支払手数料の控除
原告は、山林取引等には仲介人に対して多額の手教料を支払うのが通例であって、前項(1)ないし(3)の取引等にも別表二の一、二の二、二の三の「原告の認否および主張」欄に記載のとおり合計四九九万円の手数料を支払った旨主張するところ、相当多額の支払手数料を要することは被告もこれを認めるところであるし、証人藤木昇吉、同藤本勇、同古川吉春、同村田豊治の各証言を総合すると、原告がその主張額に近い手数料を支払ったことを認めるに足りる。ところで、所得税の課税標準たる所得につき被告課税庁が立証責任を負う以上、所得の算出要素たる必要経費(支払手数料を含む)についても同じく被告課税庁に立証責任があるというべきであるから、支払手数料につき右の程度に立証なされた以上、原告の主張額を採用すべきものと解する。しかしながら、被告は、その主張自体からも明らかなとおり、原告の支払手数料を収入金額の五〇%と推定して収入金額から控除しているので、これを前項(1)ないし(3)の合計収入金額二、四〇八万八、〇〇〇円に当てはめると、金一、二〇四万四、〇〇〇円となって原告主張額を上廻り原告に有利であることが明らかであるから、結局、前項(1)ないし(3)の取引に関して控除すべき支払手教料は金一、二〇四万四、〇〇〇円と認めるのが相当である。
(四) 所得金額の計算
山林取引等につき前記手数料のほかに各種経費を要することは明らかであり、課税標準たる所得額の算定には収入金額から右経費の控除を必要とするが、弁論の全趣旨によれば、原告は経費に関する帳簿書類等を具備せず、また、被告の調査に対しても協力しなかったことが認められる。被告は、そのために熊本国税局作成の商工庶業等所得標準率を適用して所得額を推計した旨主張するところ、前記の事情から実額算定ができない場合に所得を推計することは、その推計方法が合理的である限り適法というべきである。而して、所得標準率が一般に、納税者の所得額を推計方式で算出すべき場合の便宜に供するため地域差規模差等を充分考慮しつつ無作為標本調査方式を用いて、調査対象を選定し、これらに対して実額調査を行ない統計学による処理を通じて作成されたもので、合理的根拠を有する公正妥当なものであることは当裁判所に顕著な事実であるから、他にこれを用いることを不当とすべき特段の事情がない限り、被告がなした所得額の推計方法は適法というべきである。
ところで、成立に争いのない乙第二二号証(昭和三四年分商工庶業等所得標準率表)によると、昭和三四年度における山林周旋の所得率は収入金額の六七%であり、素材販売の所得率は一〇、二〇%ないし一八、二〇%であることが認められる。したがって、山林周旋については周旋による収入金額一、二〇四万四、〇〇〇円(前記(二)の(1)ないし(3)の収入金合計二、四〇八万八、〇〇〇円から(三)の支払手数料一、二〇四万四、〇〇〇円を控除した額。なお、右(二)の(1)、(2)の収益は、原告が売買当事者となって得た売買差益であるが、弁論の全趣旨によれば、右は実質的には周旋行為であり、売買差益は周旋料に相当することが明らかである。)に右所得率六七%を乗じると所得金額は八〇六万九、四八〇円、素材販売については収益金一、四六〇万円に最低所得率一〇、二〇%を乗じると所得金額は一四八万九、二〇〇円となり、結局、昭和三四年分営業所得は合計金九五五万八、六八〇円となる。
(五) 原告主張の損失について
証人田村近次、同高橋一輔、同原田豊明の各証言、田村証言によって成立の真正を認める甲第一号証の一、三、第二号証の一ないし五、成立に争いのない甲第一号証の二、乙第二六号証(一部)、第二七号証を総合すると、原告は、昭和三三年一二月二四日訴外田村近次から、同訴外人がさきに訴外諌本某に売渡した八代郡泉村柿迫字三ツ尾六、九四五番の四山林一反二畝一五歩に生立する立木一切を代金八〇〇万円で買受け内金二〇〇万円の支払いをなしたこと、原告は昭和三四年中に右山林を福岡市所在の山下製材所に転売し手付金二〇〇万円の交付を受けたが、右山林は結局前記諌本の所有に帰したため、山下製材所に対し手付金の倍額たる金四〇〇万円を償還して契約を解除せざるを得なかったこと、このことは訴外田村が原告との間の売買契約を履行しなかったためであるとして、その後原告は同訴外人に対し四三〇万円の債権を主張してきたが、昭和三八年一月ごろ債務免除の意思表示をなしたことがそれぞれ認められ、前記乙第二六号証のうち右認定に反する部分は措信しない。以上の事実によれば、原告の主張する四三〇万円の債権は前記の訴外田村に支払った二〇〇万円および山下製作所に償還した二〇〇万円を含む趣旨のものと解せられるところ、かりに、右債権が法律上有効に成立するとしても、債務の履行がなされないことをもって所得税法上の損失とみなすことはできず、損失の発生時期は法律上債務の消滅原因である債務免除の意思表示が相手方に到達した時と解するのが相当である。してみると、免除の意思表示がなされたのは昭和三八年一月ごろであるから、これを昭和三四年度の損失とする原告の主張は理由がないというべきである。
三 昭和三五年分営業所得について。
(一) 被告主張の各取引(別表三の一、三の二、三の三)のうち、別表三の二番号(4)の取引を除くその余の取引がなされたことは当事者間に争いがなく、右争いのない取引のうち、別表三の一番号(2)の買受価格および全売渡価格、別表三の二番号(4)を除くその余の売渡価格、別表三の三の全受取金額についてはいずれも当事者間に争いがない。
1 別表三の一番号(1)の買受価格について。
成立に争いのない乙第一四号証によると、原告は昭和三五年中に訴外中原貞雄から同人所有の山該山林の立木を代金二、七〇〇万円で買受けたことが認められ、右認定に反する証人藤木昇吉、同古川吉春の各証言部分は信用せず、他に右認定に反する証拠はない。
2 同表番号(3)の買受価格について。
証人広川勇助、同渡辺満喜の各証言を総合すると、原告は昭和三五年一月ごろ訴外渡辺貞雄から同人所有の当該山林を代金五六〇万円で買受けたうえ、直ちにこれを訴外南熊本木材有限会社に同額の代金で転売したこと、右取引につき原告が売買当事者となったのは形式だけで、実質は右訴外会社の依頼により仲介をなしたもので、原告は訴外会社から仲介料として金二〇万円を受領したに止り、これが別表三の三番号(7)の仲介料に該当することが認められる。被告の主張に副う乙第一五号証(成立に争いがない)、乙第二五号証(前記渡辺証言により成立の真正を認める)は前掲証拠に照して措信せず、他に被告主張を認めるに足りる証拠はない。
3 同表番号(4)の買受価格について。
証人森田正次の証言によると、原告は訴外森田正次から同人所有の当該山林を代金八四〇万円で買受けたことが認められ、買受価格が六四〇万円であったとする被告主張事実を認めるに足りる証拠はない。
4 同表番号(5)の買受価格について
証人高市周太郎の証言によると、原告は訴外高市から同人所有の当該山林を代金五三〇万円で買受けたことが認められる。もっとも、右高市の質問応答書(乙第一七号証)には、原告に対し三三〇万円で売渡した旨の供述記載があるが、前記高市証言によれば右は嘘だというのであるから、右第一七号証を以って被告の主張を認めるに足りず、他に被告主張の買受価格を認めるに足りる証拠はない。
5 同表番号(6)の買受価格について
証人嶽本進の証言によると、原告は訴外嶽本から同人所有の当該山林を代金五〇〇万円で買受けた(現金四五〇万円を支払い、その後残金五〇万円の代物弁済として原告所有の山林約一町歩を同訴外人に引渡した)ことが認められ、右認定に反する証拠はない。
6 別表三の二番号(1)の買受価格について。
成立に争いのない乙第一八、第一九号証に証人牛島敏光の証言によると、原告は訴外牛島から同人所有の当該山林を代金八〇万円で買受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
7 同表番号(2)の買受価格について
原告は酒井則秋より二五万円で買受けた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、本件全証拠によっても、原告の買受先および買受価格を認めることができない。
8 同表番号(3)の買受価格および(4)の取引について
原告が番号(3)の山林を代金三〇〇万円で株式会社角商店に売渡したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一六号証の一、二によると、原告は昭和三五年七月三一日番号(4)の山林(杉、檜立木一切)を代金五〇〇万円で同商店に売渡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
してみると、特段の事情がない限り、原告は右各山林を他より買受けたと認められるところ、証人藤木昇吉の証言のうち、原告の各山林買受が架空であったかのごとき証言部分は信用せず、他に原告の買受先および買受価格を認めるに足りる証拠はない。
9 同表番号(5)の買受価格について
証人村田豊治の証言によると、原告は当該山林を村田豊治の兄から高くとも代金二五〇万円で買受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
10 同表番号(6)の買受価格について
証人内藤貞次の証言によると、同人は原告に対して当該山林を売渡したが、その価格は記憶しないというのであり、他に原告の買受価格を認めるに足りる証拠はない。
(二) 上記認定の事実からすると、原告の収入金額は次のとおりである。
(1) 売渡価格および買受価格とも判明した分の収益額 金一、八一〇万円
別表五の一のとおりで、売渡価格合計五、八四〇万円、買受価格合計四、〇三〇万円、収益額一、八一〇万円、利益率二五、八%である。(別表五の一番号(5)は利益率が特に大きいので、利益率算定の関係では除外する。)
(2) 売渡価格のみ判明した分の収益額 金二六五万七、四〇〇円
判明した売渡価格は、別表五の二のとおり合計一、〇三〇万円である。その収益額の算定につき、当年度の売渡、買受両価格が判明した分の利益率を用いる方法が適法法であることは前述のとおりであるから、右売渡価格合計一、〇三〇万円に前記(1)の利益率二五、八を乗じると金二六五万七、四〇〇円となり、これが推計収益額となる。
(3) 周旋料(仲介料)金一六六万円
別表三の三の「被告の主張」欄記載のとおりで、合計一六六万円である。
(三) 支払手数料の控除
原告は前項(1)ないし(3)の取引につき、別表三の一、三の二、三の三の「原告の認否および主張」欄に記載のとおり、合計八六五万円の手数料を支払った旨主張するが、被告は原告の支払手数料を収入金額の五〇%と推定して収入金額から控除した旨主張するので、これを前項(1)ないし(3)の合計収入金額二、二四一万七、四〇〇円に適用すると推計支払手数料は金一、一二〇万八、七〇〇円となって原告主張額を上廻り、原告に有利であるから、昭和三四年分について述べたところ(二の(三))と同様に控除すべき支払手数料は金一、一二〇万八、七〇〇円と認めるのが相当である。
(四) 所得金額の計算
成立に争いのない乙第二三号証(昭和三五年分商工庶業等所得標準率表)によると、昭和三五年度における山林周旋の所得率は収入金額の六七%であることが認められる。右所得率による所得額の推計が適法であることは前記のとおりであるから、これを山林周旋による収入金額一、一二〇万八、七〇〇円(前記(二)の(1)ないし(3)の収入合計二、二四一万七、四〇〇円から(三)の支払手数料一、一二〇万八、七〇〇円を控除した額。なお、右(二)の(1)、(2)の売買差益の実質が周旋料に相当することも昭和三四年度と同様である。)に乗じると、所得金額は七五〇万九、八二九円となる。
(五) 原告主張の損失について
(1) 井上静雄関係
成立に争いのない乙第二九号証に証人原田豊明の証言によれば、昭和三四、五年ごろ、原告は訴外井上静雄との間に原告が買主、訴外井上が売主となって山林の売買契約をなし、原告は代金の内金として八〇万円を支払ったこと、しかるに、右井上は当該山林の所有者でなく、右契約の履行ができなかったので、昭和三七年一一月ごろから両者の間に翌昭和三八年四月までに七〇万円(右八〇万円のうちから一〇万円は代金交付と同時に原告が謝礼金名下に井上から受領している。)を返済する旨の合意が成立したことが認められる(右認定に反する乙第二八号証は措信しない。)ので、原告主張の損失はなかったものというべきである。
(2) 大矢野実男関係
成立に争いのない乙第三〇ないし第三二号証に証人原田豊明の証言によれば、昭和三五年一二月ごろ、原告は藤木昇吉、吉田久寿男の仲介により、同人らを代理人として訴外徳永太善の代理人大矢野実男との間に右徳永所有の水俣市岩井口所在の山林を買受ける旨の売買仮契約(予約)をなし、直ちに手付として一〇〇万円を大矢野に交付したこと、右仮契約の内容は、本契約日昭和三六年一月一五日、代金一、三〇〇万円、代金支払は内金二〇〇万円を本契約締結と同時、残金は本契約後の昭和三六年四月ごろまでとし、本契約締結に至らぬ場合前記手付金一〇〇万円は違約金として没収する約であったこと、その後原告は大矢野に対し右仮契約の合意解約を交渉したがその合意に達せず、本契約締結にも至らなかったため、右手付金を没収されたこと、仮契約に際し原告は右藤木、吉田らに対し仲介料として金三〇万円を支払ったことが各認められ、右認定に反する証拠はない。以上の事実によれば原告の主張額中三〇万円は損失に該当せず、また、一〇〇万円の損失の発生は昭和三五年度でないことが明らかであるから、結局原告の主張は理由がない。
(3) 田上正光関係
成立に争いのない乙第三三号証、証人原田豊明の証言によると、原告は昭和三五年六月ごろ田上正光に対し、諸富某所有の下益城郡砥用町早楠所在の山林の買受方周旋を依頼し、買受資金として七五万円、周旋料として二五万円合計一〇〇円を交付したところ、同人がこれを費消したこと、そこで原告は昭和三六年中に二五万円の返済を受け、残額七五万円については債務免除の意思表示をなしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。してみると、右七五万円は昭和三五年度の損失に該当しないことが明らかであるから、この点に関する原告の主張も理由がない。
四 以上のとおり、原告の営業所得は昭和三四年度分九五五万八、六八〇円、昭和三五年度分七五〇万九、八二九円であるから、本件各課税処分中昭和三四年度営業所得八四八万四、八七二円、所得税額三二八万五、五五〇円とした再更正決定(給与所得、譲渡所得、扶養控除、基礎控除、源泉徴収税額には争いがない。)には税額を過大に認定した違法はなく、昭和三五年度営業所得七七六万八、六五〇円、所得税額三一八万九、六〇〇円とした更正決定は、前記認定の営業所得額(給与所得、扶養控除源泉徴収税額には争いがない。)を基礎として算出される所得税額三〇六万二〇〇円を越える部分は違法として取り消されるべきである。
五 原告が昭和三四年度分営業所得を一一〇万円、所得税額を一四万八、二〇〇円、昭和三五年度営業所得を五三万六、〇〇〇円、所得税額を一三万八、八〇〇円として確定申告書を提出したことは当事者間に争いがなく、右の事実に前記二、三に認定の事実を勘案すると、原告主張の諸事情が存存するとしても、なお原告は所得税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいないし仮装し、これに基いて右の如き過少な確定申告書を提出したものと認められるから、被告が重加算税を賦課した点に違法はなく、ただ昭和三五年度分重加算税額は法定の額に法定の率を適用すると一四六万五〇〇円となり、右を越える部分は違法として取り消されるべきである。
六 よって、被告の本件各処分は右四、五の税額を越える部分は違法であるが、その余は適法であるから、原告の本訴請求は一部これを認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条担書、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 後藤寛治 裁判官 菅浩行 裁判官 矢野清美)
(別表一)
<省略>
(注) △は損失額
(別表二の一) 昭和34年分山林取引明細
<省略>
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(別表二の二)
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(別表二の三) 昭和34年分仲介料明細
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(別表二の四) 昭和34年分素材販売
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(別表三の一) 昭和35年山林取引明細
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<省略>
(別表三の二)
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<省略>
(別表三の三) 昭和35年分仲介料明細
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(別表四の一)
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(別表四の二)
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(別表五の一)
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(別表五の二)
<省略>